マイクラ飯

妻はロックでパンクだ。

かわいくて、ちょっとぶっ飛んでて、でも最高の人。
自分で言うのもなんだが、かなりの美人。
そして明るく、まるで太陽みたいに周囲を照らす。

そんな彼女を、俺は心から尊敬している。
癒しと元気をばら撒く、うちの自慢の妻。

しかし、抜けている。
いや、ちょっとどころではなく、時々こっちの目玉が白目になりそうなレベルで抜けている。

妻はロックでパンクで、家族からは時折 “クレイジーミホ” の称号を授けられる。

ある日、仕事から帰宅。
リビングのドアを開けると、テーブルの上に夕食らしきものが鎮座していた。

子どもたちは思い思いに過ごしている。
次女はブロックでタワーを建築し、長女はマインクラフトで食材を集め、ゲーム内でパンを焼いていた。

妻はというと、台所で洗い物をしている。
どうやら、料理はもう終えたらしい。

テーブルに目を向ける。
器の中には、白と灰色のサイコロ状の物体。
無彩色の見たことのない料理——いや、料理と呼んでいいのかも怪しい。

「ほう……。このローポリゴンな料理は何でしょうか?」

「豆腐とコンニャクだよ。」

シンプル、極まる。

「ほほう。実に……ミニマル。」

「でしょ?シンプル・イズ・ザ・ベストよ!」

満面の笑みで妻が言う。

「まぁ、そんな日もあるよね。ロックだね。」

思い出す。
以前、彼女が作った白米と小さなイワシ一匹だけの「昔話風献立」を。

「これ、味付けは?」

「ん? 熱湯にぶち込んだだけだけど?」

「……!?」

一瞬、時が止まる。

「食材の味を、最大限に活かしてみました!」

そう言って、彼女は台所でピシッと深々とお辞儀をする。
まるで一流割烹の料理長のように。

素材の味を最大限に活かした料理。美味しんぼで山岡がこだわり抜いて作った料理のあとに、海原雄山先生がシンプルな料理を出して美食家が感動して涙を流す、あの流れ…

……。

一口、口に運ぶ。

……。

あったかい豆腐と、
あったかいコンニャクだった。


ここは割烹料亭ではなく、ほどよく散らかった、我が家だった。

妻が半笑いでこちらを見つめている。

「どう?」

どう?じゃねぇよ。
どんな感情で聞いてるんだ。

そんなわけで、今夜も愉快な我が家の食卓が幕を開ける。

そして
『マイクラの中の食べ物のポリゴン数と、この料理のポリゴン数、どっちが多いんだろう?』
の議論に花が咲き、この料理は “マイクラ飯” と命名される。

「ポン酢かけたら、うまいっ!」

そして、ポン酢のポテンシャルにまた一つ驚かされるのであった。

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