高めポニーテール

四十歳過ぎの、こんな歪んだ顔を見たことがあるか。
歯医者の診察台に沈む。二週間前の通院時に型を取った詰め物を入れる日。

前回の治療日記の続き

スマイル軍曹(※前回の担当医)は不在で、本日は女性の先生。五十歳前後、細身、長めの髪をリボンで高い位置に結び、メガネをかけている。
「よろしくお願いします」 と短く挨拶を交わすと、すぐに治療が始まった。
詰め物を外す。エアが当たる。

「痛いっ!!」

全身がびくりと跳ねる。

「あ、痛いですかぁ!わかりました。じゃあ、ちょっと詰め物いれるんでちょっと痛むかもしれないです。じゃあ噛んでください。」

ハムッ。

い゛っだああぁああああぁああいぃぃいいぃいいいいいい

激痛とは、このこと。

何も考えられず、ただ、右頬を押さえて震える時間が流れる。

う゛ぅうう゛ううぅうううぅううぶぅううう

唸るしかない。じっとしていられない。身体がうねる。
まだ二言三言しか交わしていないのに、この仕打ちとは何事か。
“会って速攻痛いことされた記録”更新した。

唸る俺に、先生が静かに問いかける。

「痛みますか?」

痛いわボケェ!!!!!!!

その気持ちを全力で込めて、首を縦に振る。喋れない、ジェスチャーすらできない。ただ、右の頬を抑え、顔を歪めるしかない。だが、精一杯、女医を睨みつけた。

四十過ぎのおっさんの、こんな歪んだ顔を見たことがあるか?

「そうですか、ちょっと時間を見ましょう」

そう言い残し、先生はどこかへ消えてしまった。何も解決しなかった。歯科助手もいなくなり、一人きり。足をバタつかせながら痛みに耐える。

♫今から一緒に これから一緒に殴りに行こうか YAH YAH YAH
心の中で熱唱していると、歯科助手がそっと近づき、耳元で囁く。

「だいぶ痛みがありそうですねぇ」

うんうん、と小さく頷く。

「今日はこれで終わりですので、帰っても痛むようだったらまた通院してもらって」

無理無理無理無理無理!!!!!

歯が痛くて駆け込んだときの三倍は痛いんですけど?!
目をぎょろりと開き、歯科助手を見る。

なぜかにっこりスマイル。

絶望しながら今後の通院予定を確認しているうちに、神経が落ち着いてきたのか、どうにか家に帰れるレベルには痛みが収まった。帰ることにした。

帰り道、何回舌打ちしただろう。

あの痛いことだけして去った女医、腹立つ。何から何まで腹立つ。あの似合っていない、高め位置のポニーテールと大きなリボンも腹立つ。あぁ腹立つ…
車内で音楽をかける。YAH YAH YAH。まだ鈍痛の残る右頬を押さえながら…

ちなみに、今回の詰め物は初めて3Dスキャンで作ってもらった。微調整なしで、噛み合わせに違和感がないのはすごい。

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